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今日から始めたい食育の話

インタビュー
今日から始めたい食育の話
インタビューする人 & される人
interviewee 高橋ひろみ先生 栄養士

そらのまちほいくえんでは「食」にこだわり、食育活動に力を入れています。
特別な日の活動だけでなく、毎日の給食だって食育です。
そんな給食を支える食育チームの栄養士、ひろみ先生へのインタビュー。

ひろみ先生はそらのまちほいくえんひより保育園の「食の要」。

ひより保育園での食育についてまとめた本
『「ひより食堂」へようこそ 小学校にあがるまでに身に付けたいお料理の基本』
の執筆にも尽力くださった方です。

給食に使う食材へのこだわり、食育への取り組み方など、色々お話を聞きました!

てらだ おうみ

“食育”という言葉、聞いたことはあるけどあまりピンとこないなんて人も多いかと思います。ずばり“食育”とは何でしょうか?

一人ひとりで考え方は違うと思うんだけど、私には自分の子どもがいたので、その子が大きくなった時、私がいついなくなっても「どんな時に何を食べればいいのか」という判断ができる力を育てることだと思っているの。

てらだ おうみ

判断できる力…例えばどのようなことですか?

例えば、お肉は焼かないと食べれないよとか、これは生でも食べられるよとか、そういったことを日常の中で教えていきたい。自分の身体に合わせて食べるものを決めることだったり、食卓の理想はご飯とお汁とおかずが並んでいることだったり、そんなことを教えていけたらいいのかなって思っています。

てらだ おうみ

なるほど。ではそらのまちほいくえんが食育で大切にしていることは何でしょうか?

やっぱりね、旬だと思います。献立を立てるとき、古川(そらのまちほいくえん代表)にも時々チェックしてもらうことがあるんだけど、冬の寒い時期に彩りとしてトマトを入れたら「なんでこの時期にトマト?」と言われてしまったことがあるの。

てらだ おうみ

へぇ~!そんなことがあったのですか?

そうそう、「それはおかしい。」とね。たしかに昔は冬は大根と白菜ばっかりだったし、夏はきゅうりとなすばっかりだったけどそれでいいんだって私も言われて気づけました。大人になったときに、あれは旬だったからあんなにたくさん食べてたんだねって気づけたらそれでいいと。

てらだ おうみ

確かに最近の給食はなすばっかりですね!(笑)

でしょう?今の時期は大根とか絶対に使わないの。たまに夕食の子には出してしまうこともあるけど、昼の給食には出さないようにしています。

てらだ おうみ

給食に旬の食材を使うとき、調理の仕方で気をつけていること、大事にしていることはありますか?

素材の味を分かってもらうために、オクラを茹でただけとか、スティックのきゅうりとか。まずそういうのを出すようにしてます。トマトもたまに酢の物に入れることもあるけどほとんど切っただけ盛っただけのものを出しています。

てらだ おうみ

今日の給食には茹でたオクラがありましたね!美味しかったです。

どうして夏に夏のものを食べるかというと、夏が一番美味しいからです。一番美味しいときに美味しいものを食べるということも子どもたちには身につけて欲しいなぁ。鹿児島で今の時期に採れたものが鹿児島の人の身体には一番いいものだと思うから、仕入れも県内のもの、九州のもの、国内のものと段階をつけさせてもらっています。

てらだ おうみ

では園にお野菜を持ってきてくださる方々はみんな鹿児島県内で農業をされているんですか?

ほとんどそうですね。生産者さんを育てたいという意味もあって、農業を目指す人がなかなかいない中、頑張ろうとしてる人を少しでも支えるために、少量でもいいからカタチが悪くてもいいから使わせてもらう。私たちの給食だけで生活が成り立つわけではないけれど、自分達で作ったものが売れる喜びを支えたいっていう想いもあって色んな方から注文させていただいています。

てらだ おうみ

素敵な想いですね~。そして、なぜ保育園で食育に取り組もうと思われたのですか?

私が出会った宮川先生っていう東京のすごい料理家の先生がいるんですけど、その先生が言うには「3歳までに口にした食材や味の種類が多いほど、その後の食経験が豊かになる。」そうなんです。

てらだ おうみ

3歳までの食経験ですか?(あまりピンと来ていない…)

例えば色鉛筆で例えると、子どもの頃に12色の色鉛筆しか与えなかったとしたら、12色で綺麗に色を使い分けたり、重ね塗りをしたりして塗る子もいます。でもはじめから500色の色鉛筆を与えていたらその子はどんな色を再現するんだろうか。それを考えたらやっぱり500色あった方がいろんな色が表現できると思うんですよ。

てらだ おうみ

たしかに、表現できる色が変わってきますもんね。

それと一緒で、料理も自分の食べたことのある味が増えれば再現できる味が増えてくるんですよ。例えばみかんだったら温州みかん、いよかん、ポンカン、タンカン、色々あります。その酸味を知っていれば、料理をするときに「どの酸味にする?」と聞かれて「○○のような酸味」という表現ができるわけです。

てらだ おうみ

酸味を表現できるってすごいことですね!

表現というのも、「“美味しい”と“旨い”以外で表現してごらん」と言っても、普段そういうことを考えたことがないと答えられないんですよ。「なぜ美味しい?何と比べて美味しい?」って聞くと『ちょうどいい』って。「何と比べてちょうどいいの?」ていうと答えられなくなるんです。

てらだ おうみ

うーーん、私も食レポには自信がないです、、できるかな?(笑)

そうそう、『この間食べたお肉よりも柔らかいよ』とか、そういう表現を出来るように、園で出す食材には硬さも色んな硬さ、砂糖も色んな甘さのもの、果物も色んな物を使うように工夫しています。

てらだ おうみ

給食に色んな食材が使われているのはそういうことだったんですね!

3歳までの食経験によって、口の中の“味蕾(みらい)”っていう味を感じるセンサーがものすごく敏感になっていくんですね。だからとにかく色んなものを教え込むために色んなものを出してるんです。

てらだ おうみ

なるほどなるほど。献立へのこだわりはあるのですか?

献立はだいたい定食形式の〈ごはん・味噌汁・おかず・副菜2種類〉っていう一汁三菜で、納豆と味噌に関してはお腹の常在菌を増やすために欠かせないものだと思っています。

てらだ おうみ

お味噌汁と納豆はよく給食に出てきますもんね!

以前は毎日出していたんですよ。そらのまちほいくえんの子どもたちは本当に納豆が大好き。納豆がないと白いご飯が食べられないくらいだったの。でもそれだと小学校に上がった時に困っちゃうでしょ?だから週3回くらいに減らしたんです。

てらだ おうみ

そうだったんですね!たしかに子どもたちは納豆ばかりを先に食べてしまって、バランスよく食べるように注意されてしまうくらい大好きですよね(笑)

はじめは先生達にも反対されていたんですよ。汚れてしまうし、「なんで毎日出すんですか!?」って。でも納豆が子どもたちの身体に必要だということを話し合ってしっかりと納得をしてもらいました。そしたらだんだんと子どもたちが「納豆!納豆!」っておかわりが止まらないくらい大好きになって、今回はもう、逆に減らそうということになったの。

てらだ おうみ

味噌は子どもたちが園で手作りしているものを使っていますが、なぜ味噌づくりをしているのですか?

味噌を作ると色んなことを五感で感じるんです。麹の匂いがする、大豆を蒸した匂いがする、という嗅覚。麹が白くなってきてる、お布団がふわふわになってきてる(真っ白になった麦麹を園児たちはこう呼びます。)、という視覚。手で大豆をつぶしたり麦を混ぜたりする触覚。あと必ず各工程で味見をさせます。まだ味噌になっていないけども麦の蒸したのを食べる、大豆の蒸したものを食べる、ちょっと塩舐めてごらんって塩をなめさせる、手を洗いながらまだ辛い味噌をなめる。そんなことが五感を刺激してると思うんです。

てらだ おうみ

うんうん、子どもたちは味見が一番楽しそうにしてます!

そうだよね(笑)「麹ってこんなにあったかいんだよ」って言いながら、私たちが火にかけたわけでもない、麹が自然に発酵する熱を手で感じて欲しいと思っています。

てらだ おうみ

うんうん、初めて麹を触ったとき、とっても温かいことに私もびっくりしました。味噌づくりを始めるきっかけは何だったのですか?

はじめのきっかけは『いただきます』というドキュメンタリー映画で見た玄米菜食の保育園(福岡市 高取保育園)がお味噌を作っていたことだったの。古川が「こんな保育園を鹿児島に作りたい」って言ったことがきっかけで、玄米の美味しい炊き方を学びに東京の食堂を訪ねたり、お味噌は私が母から習ったものを子どもたちと一緒に取り組めるように工夫したり。

てらだ おうみ

先生方も学びながら色んなことを吸収してやっているのですね。

そうそう、今でもよく研修に行かせていただいています。

てらだ おうみ

味噌づくりは毎月やっていますが、その他の食育活動はどのくらいの頻度で行っているのですか?

保育の先生たちが「クッキングやりたいです」って声をかけてくれたり、「地元に帰省するので何か食材もらってきます、一緒に何か作れませんか?」と相談してくれたりするんです。その時は私たち食育チームも一緒に考えて計画を立てます。

てらだ おうみ

うんうん、不定期だけど保育の先生と連携して活動しているのですね。献立を見て保育の先生から声がかかることもありますか?

そうですね、その方が多いかも。「この日の給食のお味噌汁、具材が豆腐とわかめだけならうちにクラスの子達でも出来そうだから作りたいです。」って言ってくれて一緒に給食のメニューを作ることもある。この前は0歳児クラスの子達がオムレツを作ってくれました!

(△0歳児さんと一緒にクッキングをするひろみ先生。)

てらだ おうみ

あのオムレツ美味しかったですね!調理をしながら、下準備の手伝いをしながらそのまま口に入れたり食べてしまったりする子もいますよね、それは大丈夫なんですか?

そこは保育の先生がしっかり見てくれていますし、さすがに泥まみれのものだとまずいけど、そらのまちほいくえんの子どもたちは園庭がなく、芝生の生えた公園に行くことはあっても、土遊びを滅多にしないので、こうやって野菜についた多少の土に触れることはいいんじゃないかなって思います。

てらだ おうみ

では最後に、子どもたちと食育に関わる中で「ああ、いいなあ~」と思う瞬間、楽しいことって何ですか?

子どもってほんとに舌が敏感で、そらのまちで作った味噌が切れて【ひよりプレミアム味噌】を使ったときに「お味噌が違う。」って言ったんですよ。昨年そら組さんがひより保育園に遠足に行ったんだけど、やっぱり「味噌が違う。」って。

てらだ おうみ

へぇー!違いに気づいたんですね!

そうなの。私たちも半信半疑で子どもたちに色んな食べ物を与える、食べさせる、食体験を増やそうとしてるんだけど実際にどうなのかというのは今はまだわからないと思ってたんです。わかるのは大人になったころかなと。でも今の時点で子どもたちって意外と「あっこれ出汁の味がする」とかよくわかるんですよ。

てらだ おうみ

敏感ですね、大人顔負けです。

ほんとにそう。特に2歳・3歳児クラスは担任の先生が食育で色んな情報を与えてくれて、結構敏感な子が多いです。給食の時間に「今日の○○はどうだった?」と聞くと、結構ちゃんと答えてくれる。分かってるんだって嬉しくなりますね。

てらだ おうみ

それは嬉しいですね。食育チームの先生方も給食を一緒に食べたり会話したり、子どもたちと過ごす時間が楽しいですよね。

開園当初は給食を食べてくれない子がほんとに多くて保育の先生方が大変だったらしいけど、今じゃ毎日たっくさん食べてくれるんです。

てらだ おうみ

え!あんなに食べる子たちなのに!?

そうそう。びっくりでしょ?外食産業の手軽なものももちろん美味しいけど、やっぱり手作りで作ったものがこうして受け入れられるとものすごく嬉しい。私だって外食もするし、マクドも食べます。でも私は自分の好みで自分の体調に合わせたものを自分で作れるっていうのが理想だと思うんです。

てらだ おうみ

“自分の身体に合わせて”。はじめのお話に繋がりますね。

たしかに買ってきたものは美味しんだけど、お父さんお母さんが子どものためを思って作ったものがやっぱり一番美味しいんじゃないかな。好みも量も自由自在に、自分の食べたいものを作れる、自分の思ったものを作れる、というのが私の理想形。

てらだ おうみ

そうですね、少し面倒だけど経済的ですし。

そうなの。時間がなくてなかなか作れないっていうのもあるんだけど、それでも調味料の加減をしてやっぱり私はこの味が好きっていうのを見つけるような食事にしてほしいなと思います。色んな食体験をして、そのうえで子どもには『やっぱりお母さんの味が一番おいしいね』って思って欲しいし、そのためにお母さんたちにも頑張って作れるときは作って欲しいなと思いますね。

てらだ おうみ

たしかに、そらのまちほいくえんの給食はお母さんの味というか、どこか懐かしさがありますよね。今後、取り組んでみたい食育活動はありますか?

最近、2歳・3歳児の子どもたちが自分で配膳を出来るようになる練習をしているのだけど、“自分の食べられる量だけをお皿に入れる”ということを意識してほしいと思っています。自分の体調、お腹の空き具合に合わせて食べれる量を考えることって大人でも難しいと思うんです。

てらだ おうみ

そうですね、バイキングとかついついたくさん取ってしまいます(笑)

でも自分でついだ分は全部食べるとか、今日はお腹空いてるからたくさんついで頑張って食べようかなとか、毎日の給食の中で感覚が分かるようになり、出来るようになって行けたらいいなと思います。

てらだ おうみ

自分でお皿に取り分けることはまだ難しそうだけどみんな嬉しそうに取り組んでいますよね。先日、2歳児クラスの子がこれまでの持ちやすいスープマグから大人と同じ木製のお椀になったときに、すっごく喜んで「お姉さんのお椀だよ~!」と見せてくれました。

そうそう、お箸を使うようになった子とかね。給食でも毎日成長を感じます。

てらだ おうみ

うんうん、私も毎日子どもたちと楽しく美味しく給食をいただいております。今後ともどうぞよろしくお願いします。

(△第2回そらのまちほいくえん運動会でのひろみ先生。販売ブースで美味しい「大人のジンジャーエール」を作ってくださいました!)

 

ひより保育園での食育についてまとめた本
『「ひより食堂」へようこそ 小学校にあがるまでに身に付けたいお料理の基本』
につきましてはこちらのリンクからご購入いただけます。
https://www.baby-oiwai.com/fs/cocoleca/hiyorishokudo

 

現在、そらのまちほいくえんでは給食室の調理スタッフも募集中です。
詳細は以下の通りです。

ご興味ある方はホームページもご覧ください。

気になることなどございましたらお気軽にご連絡ください。
https://www.solanomachi.com/recruit

編集こぼれ話

てらだ おうみ
天高く馬肥ゆる秋。
小さいひとも大きいひともたくさん食べるこの季節。
ぜひみなさんの身近な場所でも食育を始めてみてはいかがでしょうか?

他の食育チームの先生方にもお話を聞いています!
でもそれはまた番外編でお届けしたいと思います(^^)/