読みもの
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2017年 ひよりレストラン

保育園の中の話

私たちの園で、年度始めに決まっているのは
運動会と発表会、そして卒園式だけ。
あとは、その年ごとに園児や職員たちが自ら計画を立てて
いろいろな活動をしていきます。

2017年。ひより保育園が開園し、
たくさんの園児たちが入園してくれました。

3歳以上児のほとんどは他園からの「転園」組。

ひより保育園に入ってはじめて包丁を握った
という子たちがほとんどでした。

年末が差し迫り、年長児たちの卒園が近づいてきた頃
誰からともなく「お別れ遠足に行きたい」という声があがりました。

園長や担任はその声に粘り強く耳を傾け、
何をしたいのか、どうやったら実現できるのか、
そのためにはどんな条件をクリアする必要があるのかを
丁寧に掘り下げました。

話し合いの結果、園児たちから出たのは、
ひより保育園から電車で約1時間のところにある場所に
遠足に行くという目標。

電車に乗るのにいくらお金がかかるのか、
何人の先生に引率をお願いする必要があるのか、
入館料はいくらか、
合計いくらのお金が必要なのか、
そのお金をどうやって捻出するのか、、、。

「料理をして、大人に買ってもらおう」

その日までに園生活で習ってきたメニューの中から
自分たちで献立を考えて、作業の分担を決め、価格を決める。

「300円」

安すぎない?という職員の声に、

「500円にしたいけど、子どもが作るから
高いと思って買ってくれないかもしれない」

そんな彼らの声を尊重してチケットは300円に決定。

保育園の職員や、日頃お世話になっている皆さんに
チケットの発売日を告知。

園児たちの不安をよそに、チケットは一瞬で完売。

 

さぁ、ここからがさらなるドキドキの始まりです。

もうお金をもらってしまいました。
(自分たちの食べる分を含む)45人分のランチを
ちゃんと美味しく作り上げて、
お客さんたちに満足していただかなければなりません。

レストラン前日には、緊張とワクワクで眠れない子も。

 

そして迎えた当日。

何度も重ねた話し合いの通りにグループに分かれ、
黙々と作業に集中します。

今までの食育活動とは比べ物にならないくらいの
大量のじゃがいも、大量のお米、大量の鶏肉。

やってもやっても終わらない。
時間だけは刻々とすぎ、気持ちが焦ります。

 

2人、手を切った子がいました。

(( 泣いちゃうかな? ))と思ったのもつかの間。

担任のところに駆け寄り
「早く作業に戻りたいから、なんとか血を止めてほしい」
その顔は、プロそのものでした。

かっこよかった。

ある程度すると、緊張が解け、
これまで繰り返しやってきた自信がもどってきました。
いつも通り、各工程でちゃんと「味見」をして
おいしく仕上がりつつあることを確認しながらの作業。

早く終わったチームは、
他のグループのヘルプに入ったり、
盛り付けに入ったり。

休んでいる暇はありません。

汁椀の位置、箸置きの向き。
毎日の繰り返しで自然と身についた知識のおかげで、
職員たちが口を出さなくてもきれいに盛り付けが仕上がります。

 

さぁ、12:30。
チケットをもったお客さんたちが、続々といらっしゃいました。

動画の中にチケットを受け取る園児たちの姿も写っていますので、
ぜひご覧ください。
自信と達成感に満ちた、とてもキラキラした表情をしています。

いつもより早く起き、登園し、
見事45人分のランチを作り上げ
お客さんたちと「おいしいね」とそれを食べ、
片付けをし、調理室の雑巾掛けまで自分たちでやりきりました。

今日かかった材料代を先生に支払い、
ドキドキの清算。

「遠足にいける!!」

こうやって自分たちの力で乗ったJRの窓から見る景色は
彼らの目にどんな風に写ったかな?

彼らにとっては、大人になっても忘れない1日。
私たちにとっては、3・4・5歳の可能性を見せつけられた1日でした。

編集こぼれ話

ふるかわ りさ
実はこの後、保護者さんたちから「私たちも食べたかった!」というお声をたくさんいただき、別メニューで合計3回も開催されました。
何も知らされなければ、子どもが作ったとはとても思えない完成度。
本当においしくいただきました。